投資家、ビル・アックマン来校(Applied Security Analysis)

僕がコロンビアに来た大きな理由の1つに最先端の実務家の話を生で聞けることにあります。春学期(本格的な選択授業)が始まって2日目の今日、Applied Security Analysisで早速アクティビスト(物言う株主)として有名な投資家、ビル・アックマンの話を聞くことができました。

ビル・アックマンはHBSを卒業後、26歳の若さでGotham Partnersを立ち上げ(ちなみに設立当初の運用資金は300万ドルだったとのこと)、その12年後に立ち上げたPershing Square Capital Managementでは、AUM(運用資産)を100億ドル超にまで成長させた投資家。金融会社のMBIAや栄養補助食品販売会社のHerbalifeに対する空売り、全米2位ディスカウントストアのTarget、P&G、カナダの鉄道会社Canadian Pacific Railwayに対する投資での輝かしい実績から、2015年のForbes紙では”BABY BUFFETT”の題で特集が組まれるまでに注目されていました。

しかし、同年に仕掛けたカナダの製薬会社・Valeant Pharmaceuticalsに対する投資で40億ドルの損失を計上するなど2015-2016年は憂き目にあっていました。

今回の講義は基本的にコロンビアMBA生からの質問に対してアックマンが答える形式でしたが、アックマンに対して僕が一番聞いてみたかった質問は「Valeant Pharmaceuticalsへの投資が40億ドルの損失を出す結果になった理由は何か?」。同じ質問を他の生徒がしてくれたのですが、彼の答えは「当初想定していた仮説と、投資して半年後に出てきた新しい情報が相反していたにも関わらず、当初の仮説に固執してしまったこと」とのこと。過去に素晴らしい実績を挙げたアックマンでも(むしろ素晴らしい実績を挙げてしまったがためにでしょうか)この様な失敗があるのだなと知ると、改めて事実に素直に向き合うこと、自分の考えを過信しないことの重要性を実感する気がします。

また、別の見方をすると、彼がナンピン買いでValeantに対する投資損失を拡大させてしまった点や、彼がValeant投資期間中の2016年5月に発したコメント「Valeant is probably the cheapest large company I’ve seen in my career.」からは、リーダーシップの授業で学ぶ人間が陥りやすい1つの傾向 Escalation of Commitment(自分の当初の意思決定に過度に固執してしまう人間の性質)が投資の世界でも重要な影響を及ぼすという良い実例だと思います。

一方で、個人的には「自分が理解している事業に投資する」ことも同程度に重要な気がします。元々不動産ビジネスからキャリアをスタートし、投資家としては金融や飲食・小売業界からスタートしたアックマンが(ただでさえ分かりにくい)製薬業界を他の専門家以上に理解していたかは疑問が残るところですし、あのウォーレン・バフェットでさえ門外漢の米金融大手ソロモン・ブラザーズに投資して失敗したことを踏まえると、やはり自分の知見のある業界でまずは勝負することが鉄則な気がしています(ただ、バフェットのソロモン・ブラザーズに対する投資は純投資とは異なる救済の観点があったり、ソロモン・ブラザーズの失敗があったからゴールドマン・サックスに投資できたのだとすると何をもって失敗とするかは難しいので、例え失敗をしても致命傷にならない失敗をするという見方もあるかもしれません)。

その他に印象的だったのは、「インターナショナルな投資を考えたことはあるか?」という質問に対して「基本的にはない。僕は日本語も話せないし、ドイツ語も話せないから」という答え。地理に関してはアックマンは自分のエリアを守っているのだなと思うと同時に、日本語を読み書き話せるアドバンテージもあることを改めて実感。

全体を通して、学生からの多種多様な質問全てにジョークを交えながら気さくに答える姿勢や所々で出てきた家族を大事にという話から、(あまりにも事前の情報収集で物言うアクティビストとしての経歴や他の一部投資家から態度が傲慢だと忌み嫌われていた過去を見てしまっていたせいか、、)思った以上にオープンで人間味があるという印象を持ち、やはり人は実際に見てみないと分からないと実感。
(ただ、翌日に英語プライベートレッスンの先生をしてくれているおばちゃんにこの話をした所、”Oh, did he come to CBS yesterday? He is a arrogant and a complete jerk, haha.”というコメントが返ってきた様にやはりアメリカ世間一般ではあまり好まれてはいないようですが。。)

最後に、アックマンはApplied Security Analysisの最終回(4月下旬か5月上旬)で学生のStock Pitch(株の売りor買いを推奨するプレゼン)の審査員としてまた来校するそうです。今回のプレゼン対象は基本的にニューヨーク市場に上場する企業、かつ現在の高騰する株式市況を踏まえてShort(空売り)限定となり、これから色々調査・勉強しなくてはいけないことが多く大変ですが今から楽しみです。

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