CSIMA London Trek (インベストメントクラブのロンドン会社訪問)

今週は水曜日から金曜日までの3日間、CSIMA(Columbia Student Investment Management Association)のトリップでロンドンにあるインベストメントマネジメント会社6社を訪問してきました。

この様なリクルーティングを兼ねたトリップを各クラブが企画していて(おそらく他のMBAも同様かと思います)、今回は同日程でConsulting Club、Investment Banking Clubのメンバーも一部ロンドンに来ていました。CSIMAではロンドンの他にも西海岸や香港を訪問するトリップもあり、各メンバー就職先、また将来の転属先として興味がある所で参加しています。僕は今LBSへの交換留学中ということもあり、タイミングよく今回のLondon Trekに参加することができました。

今回訪問した6社は、訪問順にT.Rowe Price、Lindsell Train、Somerset、Fidelity、PIMCO、Dynamo Capital。T.Rowe Price、Fidelity、PIMCOといった超大手資産運用会社を除いて、全体として長期投資、かつ集中投資やPE投資の同時運用といった独自性がそれぞれあり、学びの多い3日間でした。

以下、各訪問の概要を簡単に。

① T. Rowe Price
– 1兆ドル超の運用資産(AUM)を有し、本社のアメリカ・ボルティモアをはじめニューヨーク・ロンドン・香港・シンガポール・東京など世界25拠点をベースに資産運用を行う超大手資産運用会社。FidelityやPIMCOと同様、超大手中長期投資家ということで、サマーインターンの内容、チーム運営や文化、評価制度、MBA生に求める資質と言った点で特に目新しさはなかったです。

アクティブ運用からパッシブ運用(バンガードやブラックロックといったインデクスファンド)に大きくシフトしている現状をどう捉えているかという質問をした所、「単なる資産運用だけではなく、顧客によりソリューションを提供する」というアプローチということで、ここは後に出てくるFidelityとは若干異なる点かと思いました。

一方で、「パッシブ運用が巨大化することでモメンタムの要素がより大きくなり、アクティブ運用にもチャンスがあるとも考えている」というコメントもあり、この点は僕も考えていた所でこれから中長期で見るべきポイントかなと思います。

②Lindsell Train
– 5人のメンバーで約210億ドル超のAUMを運用するオーナー系資産運用会社。今回のトリップで一番面白かった。UK Equity, Global Equity, Japanese Equityの3つの投資戦略(ファンド)を有し、いずれも設立以来インデックスをアウトパフォームしているとのこと。運用手法は、ブランドや無形資産を重視し、投資対象業界と銘柄数を絞る集中投資を行っている点など、まさにウォーレンバフェットやテンプルトン卿の教えを実地で体現している珍しい部類の運用会社だと思います。

現状かなり日本をオーバーウェイト(世界の時価総額構成比と比較して過大に投資)していることもあり、「今後日本から中国やインドの会社に運用をシフトしていくのか」という質問をした所、「中国やインドの会社もウォッチしているが、僕達の基準を満たすブランドや価値を持つ会社はまだ出てきていない」とのこと。長期的な視点から日本企業を(超大手優良企業から目の付け所が面白いなーと思う様な中堅企業まで)評価している点が嬉しくなる一方で、日本の機関投資家・個人投資家にももっとこの様な長期目線での投資が増えていく必要があるのではと改めて考えてしまいます。

③Somerset
–  2007年に設立された比較的若い運用会社。約75億ポンドのAUMを有し、エマージングマーケットに特化、75%をアジア、25%をラテンアメリカに投資している。エマージングマーケット投資ならではの為替リスク、政治リスク等を踏まえた上でのポートフォリオマネジメント方法の一端を聞くことができたのは学びになりました。

ちなみに、近年はエマージングマーケットがアメリカ等先進国の株式市場と比較してアンダーパフォームしてきたこともあり、今後のリターンと競争環境に対する見立てを質問した所、「今度5-10年はエマージングマーケットがアウトパフォームすると考えている(個人的には?ですが)。一方で競争も激しくなると思うが、規模の優位性とまだまだカバーされていないフロンティアの存在から自社にとって良い環境だと思っている」とのこと。僕個人としてはアメリカの会社に投資してもエマージングマーケットにはとても投資しようと思いませんが。。

④Fidelity
–  グループ全体で4兆ドル近くのAUMを誇る最大手株式アクティブ投資運用会社、本社はアメリカ・ボストンでT. Rowe Priceと同様世界各地に拠点を有しています。

会社説明で、アクティブ運用からパッシブ運用への流れに関して「Large Capではパッシブ運用がアウトパフォームする可能性が高いかも知れないがSmall-Mid Capではアクティブ運用にも十分勝ち目がある」というT. Rowe Priceとは異なるアプローチ。さすが過去にピーター・リンチを輩出した会社といったところでしょうか(限界もあると思いますが、、)。

最大手株式アクティブ投資運用会社ということで、社内リソースが最大の売りの1つという話をしていたので、ちょっと気になりポートフォリオマネージャー2人に「アルファ(マーケットに対するプラスの運用)の源泉は、Informational Edge, Analytical Edge, Behavioral Edgeどれですか?*」と質問してみた所、1人は「一番はAnalytical Edge、常にInformational Edgeがあったら私は今頃(インサイダー取引で)刑務所にいるからね(笑)。部下のアナリストの話を聞くときも、そこにどんなInsightがあるかを見ている」、もう1人は「加えてBehavioral Edgeも大事。じゃないとContrarian(マーケットの見方と異なるポジションを取る投資家)になれないからね」とのこと。結局どんなに膨大なリソースと情報があってもそれをどう処理し、どういう見方をするかが大事ということで、半分意外、半分納得な答えでした。一方でここまで超大手運用会社になってしまうと、Behavioral Edgeで大きく勝負はできない、そこが今回訪問したLindsellやDynamoと異なる点かとも思います。

*一般的に、投資家がマーケットに勝つためにはInformational Edge, Analytical Edge, Behavioral Edgeの最低どれか1つが必要と言われています。僕はこれに加えて、Time Horizon Edgeもあるかなと思っています。

また、曰くFidelityは大手資産運用会社の中で唯一MBA生の採用時にローカルビザを要件としていない(つまりビザサポートが基本、ロンドンオフィスだけかもしれませんが)とのことでインターナショナル生に寛容な会社。今年初めにアメリカの資産運用会社とのサマーインターン面接で「アメリカのPermanent Work Authorization持ってる?」→「いえ、持ってません」→「そしたら本当に残念なんだけど、先に進めることはできないんだ」というやり取りを2回経験した(ただでさえ英語でビハインドを取っている)身としては、これがどれだけ有難いことか。先日Bloombergの雑誌記事で見たが、やはりトランプ政権になってビザ要件が厳しくなっている(そしてその影響でインターナショナル生の北米MBA出願が減っている)ようです。

⑤PIMCO
– Fidelityが株式アクティブ投資の帝王だとすると、PIMCOはFixed Income(債券)アクティブ投資の帝王。ちょうど同じ金曜日の午前中に連続して2社を訪問できたので、運営体制や強み、競争環境など色々比較することができ勉強になります。PIMCOは1.7兆ドルのAUMを有し、FidelityやT. Rowe Priceと同様世界各地に拠点を有しています。特徴として、高い従業員1人当たり売上(株式運用会社ほど競合が多くなく、外部のコンサルタント経由で大口顧客が入ってくるからでしょうか)、顧客に応じた投資戦略・ポートフォリオマネジメント、また内部の観点からはピータードラッカーの助言に基づいて設計した組織運営を挙げています。

Money: Master the Game」にてレイ・ダリオの運用方針を読んでからFixed Incomeに関してももっと理解しなくてはと思う様になり、「債券投資は株式投資と比較してアルファの出し方がどの様に異なるのか」を質問した所、「債券は(IPOと増資といった限られた機会しかない)株式と異なり、何回でも発行の機会があるのでチャンスが多い」(これは社債市場が圧倒的に薄い日本国内では当てはまらないかもしれません)、そして「大手になればなるほどFinancingの力を活用して、例え不人気な社債発行案件でも交渉により良い投資に持っていくことができる」とのこと。株式投資とは全く異なる視点で勉強になりました。

⑥Dynamo Capital
– 今回のトリップ最後に訪問したのがDynamo Capital。50億ドル程度のAUMを有し、(創業者がブラジル出身ということで)ブラジルに55%、イギリスに40%程度を投資している。「バリューインベスティング in Brazil」をポリシーとして創業、一時ブラジルの政治混乱でAUMが1/7程度になる憂き目にもあいながら、その後盛り返し、ヨーロッパにも投資対象を拡げ、着実な実績を残している。また公開株投資だけでなくPE投資も行っていることも1つの特徴。

今回は創業者自ら訪問に応じ、創業時のエピソードから最近の投資案件まで(具体的な会社名を交えて)1時間半も熱く話していたのがとても印象的でした。また、これまでの長期かつ集中投資という典型的なバリューインベスティングに今後どの様にテクノロジーを織り込むか、テクノロジー企業をどの様に評価するか、また新しい時代に繁栄する組織とはどの様なものか、といった柔軟かつ幅広い問いを自分自身に投げかけているその姿勢も尊敬してしまいます。

いくつか質問した中では「ブラジルとヨーロッパどっちが投資しやすいですか?」という質問に対する「ブラジルの方が圧倒的に楽。ヨーロッパは何でも早く動くから見通しが立てにくい、一方ブラジルは政治的制約もあって何事も全然進まない。投資家にとってこれは有難いんだけど、地理的リスクを分散させるためにヨーロッパにも投資せざるを得ないんだよね」という答えや、「ブラジルとヨーロッパ以外に投資対象を拡げないんですか?」という質問に対する「僕(ブラジルとヨーロッパにルーツを持つ身として)は文化的背景が肌身で分かって、人がどう動くかが分かる国にしか投資できない。だから中国なんて絶対投資できないんだよね」という答え、また「どんな企業に投資するにしても、その企業を100%保有すると思って投資した方が良い」といったメッセージは特に僕にとって示唆があり印象的でした。

卒業するまでに、あと1回ぐらい会社訪問を兼ねたトリップに行きたいなー。

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