Berkshire Hathaway annual shareholders meeting ~バークシャーハザウェイ株主総会(番外編)

バークシャーハザウェイの株主総会が終わり、日米の新聞記事やニュース記事に対するコメントを読んでいていくつか気になる点があったので番外編として。

まず、日経新聞に出ていた”バフェット氏「アマゾンは『割安株』」4万人総会で語る”という記事について。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44440750V00C19A5000000/

バフェットは、アマゾンについて一言も割安株(Undervalued Stock)とは言っていません。株主総会ではあくまで、”All investing is Value Investing”と言っただけです。では、どうしてこんなミスリーディングな記事になるのでしょうか。

それは、日経新聞に限らず日本の記事や書籍がバフェットのValue Investingを「割安株投資」と翻訳してしまい、その結果上記のコメント”All investing is Value Investing”が「割安株投資の原則に沿ったもの」と置き換わってしまうからだと思います。確かに、バフェットはベンジャミングレアムから「割安株投資」という意味でのValue Investingを学び、本格的に投資のキャリアをスタートさせていく訳ですが、チャーリーマンガーとの出会いを経てとっくの昔に単に安いだけの 「割安株投資」はシケモク株投資だということで彼にとってのValue Investingではなくなっています。

では、バフェットにとってのValue Investingとは何なのでしょうか。僕がバフェットに関する書籍を少なくとも10冊近くは読み、彼のインタビューやスピーチを聞き、またコロンビアビジネススクールでの授業やニューヨークの投資家との話した上での理解は、「優良企業・適正価格・長期投資」というものです。

それでは、なぜバフェットは、「優良企業・適正価格・長期投資」という戦略を取るのでしょうか。

主な要因として、まず1点目の優良企業と言う点に関しては、
①優良企業は長期的に利益(かつキャッシュ・フロー)を積み重ねられる
②株価は短期的には美人投票だが、長期的には利益に連動する(これはS&P500と企業の利益の過去データから概ね実証されています)
③かつ、長期的に積み立てられたキャッシュ・フローが一部でも配当や自己株買いに回れば更なる株主利益向上につながる(ただここが第一目的ではない所がいわゆるアクティビストファンドとバフェットの投資手法が異なる点です)

2点目の適正価格に関しては、
①(特にバークシャーハザウェイの運用資産規模に貢献できる)優良企業が割安に放置されているケースは稀である
②一方で、アメリカ経済は大体年2-3%のインフレがあるため現金を寝かせることに対する機会費用が一定程度存在する
③かつ、マーケットの動きは誰も予測できない
④そのため、適正価格であれば(=少なくとも割高でなければ、割安であれば尚良いのは当然ですが)投資をするのが資産運用者の受託者責任(いわゆるフィデューシャリー・デューティーってやつです)を果たすことになる

そして、3点目の長期投資に関しては、
①マーケットが読めない中で短期的な売買をすることは利益やキャッシュフローといった業績ではなく美人投票に賭ける割合が高くなり、ただでさえ55%の機会でプラスであれば御の字、60%なら天才と言われている投資の世界でさらに自分の勝てる分を悪くすることになる
②加えて、短期的な売買による税コストが長期的に見ると資産運用成績に大きな影響を与える
という点が、僕が考える主な要因です。

そのため、バフェットが話すValue Investingを「割安株投資」と表現するのは一面的でしかない上に、ミスリーディングでもあると僕は思っています。
(以前書いた記事「バリュー投資か、グロース投資か」もご参考までに。)

次に、バフェットがAmazonに対する投資を発表したことがポジショントークではないかというコメントがちらほらあったのでこの点についても考えたいと思います。

まず、SECの規定で1億ドル(約110億円、当然バークシャーハザウェイは超えています)以上の資産運用会社は毎四半期末から45日以内にForm 13Fとしてポートフォリオ(ETF含むアメリカ上場企業への投資が対象)を公表しなければならず、Form 13Fは一般の人も見れるため、バークシャーハザウェイがAmazonに投資したことはバフェットがコメントしなくても株主総会から10日もすれば周知の事実になったはずです。

その中で、バフェットが株主総会の前日にコメント(念のため再度書きますが、バフェットはAmazonに投資したと言っただけで「割安」だとは一言も言っていません)したのは、株主総会後にForm 13Fを通してAmazonに対する投資をバークシャーハザウェイの株主が知るのでは株主総会での質問の機会を奪うことになり、それでは資産運用者としての受託者責任、またはアカウンタビリティを果たしておらず、バフェットの倫理観に反するためと考えるのが自然なのではないかと僕は思います。
参考: https://www.cnn.com/2019/05/02/investing/warren-buffett-berkshire-hathaway-buys-amazon/index.html

また、バークシャーハザウェイとして、短期的にAmazonの株価を上昇させるインセンティブは全くと言っていいほど無いと思います。上記に書いた通り、バークシャーハザウェイは長期投資が原則ですし、仮に短期的にAmazonの株価が上昇した所で、(ヘッジファンドの様に成功報酬を設定していないため)バークシャーハザウェイにもバフェットにも1円の収入にもなりません。加えて、(過去のバフェットの発言また株主総会でのバフェットのApple株に対するコメントからも読み取れる様に)バークシャーハザウェイとしては投資先企業の株価が短中期的には割安に放置されていた方が自社株買いが行われ、長期的にバークシャーハザウェイの投資利益の増加につながるため有利なのです。

これが来月、もしくは来四半期までにバークシャーハザウェイがAmazon株を売却していれば全く話は変わるのですが、そういった証拠が無い限りバフェットのコメントがポジショントークだというのは全く合理的でないと僕は考えます。

ただ僕はコロンビアビジネススクールでValue Investingを学び、どうしてもバフェットに寄った見方になってしまう部分があると思うので、もしこのブログを読んでいてバフェットのコメントがポジショントークだと言える合理的な説明があればぜひコメントをお願いしたいです。

ちなみに、こういったコメントの背景にあるのは、日本の投資家の中で未だ残っている株式投資に対する短期志向(=短期的に株価が上がると予想される株式に投資するのが良い投資だという志向)ではないかと勝手に推察しています。
注:ここで言う短期・長期は投資をする上での視点の時間軸を指していて、(税コストの問題はありますが)必ずしも保有期間が長ければ良いものでもないと個人的には思っています。極端な例で言うと、合理的な理由が無く株価が突然2倍になった場合に、(特に資産運用者の場合は受託者責任から)冷静に情報収集・分析を行った上で多少なりとも保有株式を売却し、適正価格に戻った段階で再度投資するのは当然の行動だと言えると思います。

長くなりましたが、ミスリーディングと言える記事から「バフェットが割安だと言った」という理由でAmazon株を購入し、仮に後でちょっとした理由で株価が20-30%下がった時に自信を無くして売却して、アメリカのヘッジファンド含む機関投資家の餌食にならない様にと思い、(完全に余計なお世話ですが笑)つらつら書いてみました。

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